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バンドメンバーの静 炉巌です。この前、”冥土喫茶の漫才”のことを書いてね、そこに藤岡藤巻の写真を貼ったわけです。あらためて見ると…

なにこれ? これがミュージシャンの写真なの?

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なんだか、会社の忘年会で、ひと昔前のサラリーマンが漫才を披露してるって感じがハマりすぎてる

だって、どうみたって、これは上司に怒られて、全力でヨイショをしている藤岡さんと、反省したフリでもしておきゃいいんだろ!とばかりに形だけうつ向いてる藤巻さんにしか見えない。腹立たしくなるほどにそんな感じ。


驚くべきことに、この写真はいわゆる“アー写“なんですよ、皆さん!

アー写ってのは、“アーティスト写真“の略なんだけど、ほら、芸能事務所とかが所属するタレントの写真を公式サイトに載せてたりするでしょ。あれですよ。あの公式写真がアー写。つまり、このふざけた写真は公式なの。

こういう写真のせいで、藤岡藤巻はフザけた音楽だって誤解するヒトが多いと思うんです。

一応ね、ちょっとばかり背景はあるんですよ。

藤岡藤巻ってのは、事務所に所属してないんだけど、以前はマネジメントだけを東宝芸能やホリプロにお願いしてた時期があったの。例えば、イベントやライブの諸々の調整とかね。

で、ホリプロにマネジメントをお願いしてた2008年11月のこと。

マネジメントとはいえ、事務所に所属することになるんだから、ホリプロのサイトや宣伝に使うためのアー写が必要ってことになったわけ。

もちろん天下のホリプロですから、ちゃんと売れっ子のタレントも撮影する専属のスタジオで撮るわけです。「卒業アルバムの写真を切り抜いてもってくりゃいいだろ!」なんてケチなことは言わない。

カメラマンだって、スタジオ専属のカメラマンだからね。そこらへんを歩いてる中学生に「きみ、悪いけどシャッター押してくれない?」なんてことはないんです。

で、撮影当日。雑誌の表紙を飾るモデルさんがよく似合う洒落たスタジオに、藤岡藤巻の二人がいるわけです。無地の背景の前で、ちょっと緊張してる感じの二人。

カメラマンは手慣れたもので、「ここでスーツの方の写真を撮るのは初めてですよ」なんて言いながら、二人にイイ感じのポーズを指導してパシャパシャ。

で、撮影がひととおり終わりそうなところで、ついつい口が出ちゃったの。

すみません。藤岡藤巻らしい、カッコ悪い写真もほしいんですよね。ごめんなさいって謝ってるとことか、ゴマすりをしてるところとか

ギョっとするカメラマン。

えっ? 今まで、そんなポーズで撮ったアーティストなんていませんけど

確かに、お笑いタレントの人だって、アー写ではちょっと気取って真面目な感じで写っている。

でも、それが藤岡藤巻なんですよ」と熱弁するオレ。

カメラマンは、困ったように担当マネージャーの松尾さんに目線を送る。松尾さんは戸惑った顔で藤岡藤巻をみる。目線のキャッチボール。そして「一応、撮ってみてもいいんじゃない?」と藤岡藤巻。

そんなわけで藤岡さんも藤巻さんも、音楽業界と広告業界の長いサラリーマン生活で身につけた"サラリーマン仕草"を披露することに。

でもってカメラマンはと言えば、さっきの戸惑いがウソのようにノリノリになってる。

そりゃね、これまでどんなブサイクだってカッコよく、あるいは美しく撮らなきゃいけなかったんだから、ストレスだってあったでしょうよ。そのストレスを開放したかのように生き生きしてる。

もちろん、藤岡藤巻のサラリーマンポーズだって、バッチリ決まってた。

これだよ、これが藤岡藤巻なんだ! サラリーマンの神様、見てますか! オレの給料を上げてください。

そんなわけで、藤岡藤巻の何パターンかのアー写の撮影が無事に終了した。もちろん、いわゆる”ちゃんとしたポーズ”だってある。

だけどね、その後、アー写を活用する場面は何度もあったけど、たいていはサラリーマンポーズの写真が使われてたの。

藤岡さんと藤巻さんは「お前のせいで、アー写がこんな写真になっちゃっただろうが!」って言うけど、それは違います。

藤岡藤巻の存在が、オレにあんなことを言わせたんです。オレだって、あんなことは言いたくなかった。

でもね、今だからいうけど、これがアー写って、なんかヘンだと思う!っていうか、絶対ヘンだよ!!

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バンドメンバーの静 炉巌(せいろがん)です。

ちょっと前に「いらっしゃいませ♡冥土喫茶へ 群馬・桐生市にオープン」っていう記事を読んだわけ。

この“冥土喫茶“ってのは、メイド姿の60代店員が出迎えて、高齢者に居場所と交流の場を提供するところなの。

で、そういえば何年か前に、藤岡藤巻に”冥土喫茶”をテーマにした漫才を書いたことを思い出して漁ったら見つけました。

これね、文字だと”メイド”と”冥土”の違いがわかるけど、言葉にすると混乱するかなと思って、書いたはみたけどそのままになってた。

そんなわけで、せっかく見つけたのでここでご紹介です。しかし、似たようなことをホントにやるとはなぁ。



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  「メイドカフェをはじめます」
 
藤岡「オレさ、カフェをはじめようかと思うんだよね」

藤巻「えっ? カフェって喫茶店でしょ。今どき流行らないんじゃないの?」

藤岡「いや、オレがやりたいのは、そういうカフェじゃなくてさ。メイドカフェなんだよ」

藤巻「ますます終わってるって!」

藤岡「そっちのメイドじゃなくてさ。オレたちだって、そろそろ冥土に行く歳だろ。だから、老人をターゲットにした冥土カフェを作るんだよ」

藤巻「あっ、そっちの冥土ね! どんな店なのか想像がつかないけど」

藤岡「まぁ、入り口は普通の見た目だよ。ただ色的には全体的にセピアな感じだね」

藤巻「枯れた感じね」

藤岡「で、店のドアを開けると、『お迎えに参りました』って、冥土(メイド)さんが出てくる」

藤巻「ちょっと待って! 冥土カフェにメイドがいるの?」

藤岡「そりゃいるよ。冥土カフェだもの。でもね、そこらヘンのキャピキャピした感じの女の子じゃなくて、落ち着いた感じ。黒いワンピースを着た後家さんだね。歳の頃なら40歳ぐらいですよ」

藤巻「なんかいいね」

藤岡「店内のBGMとしては、木魚がポクポクとなっている。この単調さは、魂が抜けていくような魔性のリズムなんだよ。で、冥土さんが席に案内してくれるわけ」

藤巻「もしかして、オムライスとかもあるの?」

藤岡「お前、好きだもんな。もちろん、ある。これは凝ってるぞ。フードプリンタを使って、食べられるインクで絵を描くんだよ。お前がオムライスを注文するだろ。そしたら冥土さんが撮ったお前の写真が、オムライスの上に印刷されてくるんだよ」

藤巻「ケチャップで描くんじゃないの? あれがいいんだけど」

藤岡「ここからなんだよ。このオムライスは、お重に入って出てくる」

藤巻「お重って、蓋がついてるやつだろ」

藤岡「その蓋がポイント! 蓋の真ん中が観音開きに開くようになってんだよ」

藤巻「なんだか、棺桶の覗き窓みたいだね」

藤岡「それがコンセプト! 観音開きの蓋を開くと、オムライスに印刷されたお前の顔がみえるんだよ」

藤巻「イヤな感じだな」

藤岡「まぁまぁ。オムライスが運ばれてくると、冥土さんの手にはケチャップの容器が握られる」

藤巻「出ました。魔法のケチャップ!

藤岡「冥土さんは、小悪魔的にホッペを膨らませてね。オムライスに描かれた顔の口のところに、ケチャップをかけるんだよ。『吐血したでちゅー!』とか、言ってさ」

藤巻「かわいい!…かな?

藤岡「かわいい…よね? で、両手の指でハートマークを作る代わりに、手を合わせてさ。小首をかしげて『なむなむちーん。成仏しようね❤️』って言うわけ」

藤巻「うんうん」

藤岡「オムライスを食べ終わるとね。冥土さんが、チーンとお鈴(おりん)を鳴らしてさ。そしたらデザートのパフェが運ばれてくる。クリームの代わりに饅頭が乗ってるやつ」

藤巻「重いよ!オムライスのあとだよ

藤岡「これまた器が凝っててね。パフェは舟盛り用の舟に乗って出てくるわけ」

藤巻「よく居酒屋で刺身が乗ってるやつ? あっ、三途の川の渡し船ってことか」

藤岡「そのイメージ! で、パフェを食べながら、冥土さんと『オレ、もうこれに乗って逝っちゃおうかな』、『まだ逝かないでよ』、なんて会話をイチャイチャと楽しむわけだ」

藤巻「いいじゃん! ちょっと聞くけどさ。その…冥土さんと、店外デートなんてできないよね?」

藤岡「よくぞ聞いてくれました。もちろん、できますとも! むしろ、推奨しています」

藤巻「それホント? すごいじゃん!」

藤岡「但し、行ける範囲は限られてるけどね」

藤巻「そうだよね。どこまでいけるの? 近所の公園とか?」

藤岡「一番近いATMまで

藤巻「えっ?」

藤岡「店の勘定はバカ高いからね。大抵はションボリと連行されて行くよ」

藤巻「ぼったくりじゃん! それじゃリピーター客がつかないよ!」

藤岡「大丈夫! ジジイは都合の悪いことは忘れちゃうから

藤巻「さすがに、それはないって!」

藤岡「でも、お前に、この話をするの3回めだよ

静 炉巌ですけど、いやね、藤岡藤巻と一緒に活動っていうか、遊ぶようになって20年ぐらいになるわけ。週二ぐらいで会ってた時期もあるし、今でもなんだかんだと隔週ぐらいで顔を合わせてる。

で、藤岡さんも藤巻さんも、“面白がり“で“楽しいことをやりたい“っていう二人なの。

そんなわけで、ついつい自分も悪ノリしちゃうんだけど、二人とも面白がっていろんなコトをやったり、アイデアを出すくせに、やったあとはすっかり忘れている。

しかも、ヘンに“粋“なところがあって、やったコトの説明や意味を語ることをしないわけ。江戸っ子か? いや、単にやりっぱなしなだけだよね。

で、そんな忘れられた遊びの一つに、アルバム『藤岡藤巻Ⅲ』のブックレットに掲載された“藤岡藤巻の30年後の写真“ってのがある。

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これね、ブックレットの中ほどに“藤岡藤巻の素顔“っていうページがあって、二人の男の写真が掲載されてる。

ページの左下には“2037年、藤岡藤巻85歳の姿を最新のCG技術を駆使して再現“の文字。

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「これホントに藤岡藤巻? こんな感じになるの?」っていう疑問もあるだろうけど、そもそも意図がわからないじゃん。

それはその通りで、だってこの二人は藤岡さんでも藤巻さんでもないし、ましてやCGでもないもの。

じゃ、誰なの? 
ってことになるけど、このお二人は、藤岡藤巻がアルバムの写真撮影をしたスタジオにいたオジサンなのです。

この時は、市ヶ谷のスタジオだったと思うんだけど、実際に撮影を始める前に藤岡藤巻の立ち位置を決める作業があるの。

で、そのために写真屋の奥から二人のオジサンが出てきた。スタジオの先代らしいんだけど、このお二人が位置決めのモデルとなって、大体の立ち位置を決めてから、藤岡藤巻の写真撮影をするわけ。

でもね、このお二人の試し写真がすごくイイ感じなわけ。妙に枯れ尽くした感じっていうか、これまでの人生で感情を使い切ったかのような無表情な感じとか。そっと後ろに立たれても絶対に気がつかない。たぶん、刺されてもわからない。痛いだろうが!

そんなわけで藤岡藤巻と盛り上がって、アルバムに載せるなら、藤岡藤巻より、断然この二人の方がイイじゃんってことになったんだよね。

もちろん、許可はもらったんだけど、たぶん本人たちには伝わってない。だって店主は「親族だからいいっすよ」みたいな感じだったもん。

まさかお二人も、自分たちが人生の終盤で藤岡藤巻になってたなんて思ってない。せめて、サイモン&ガーファンクルとかなら諦めもつくだろうけど、でも、人生なんてそんなもんっすよ。

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だから85歳っていうのも、「なんとなくそれぐらいじゃない?」みたいな感じでつけた。

でもね、藤岡藤巻が85歳になった時に、この顔になってないとは限らないわけでしょ。まだ可能性としてはアリだと思うんだよね。だって、ヒトなんて歳をとるほど誰だか区別がつかなくなってくるもの。自分が誰かもわからなくなるし。

もしかすると、これは未来のアナタの姿なのかもしれません。






バンドメンバーの静 炉巌(せいろがん)です。

藤岡藤巻は10月31日に、名古屋の“相応寺“という由緒正しいお寺でライブをやってきました。

藤岡藤巻として関西に行くのは、なんと2007年以来! いつものメンバーの藤岡さん、藤巻さん、羽生さん(バンマス)、後藤さん(ギター)、川島さん(ドラム)、ゴローさん(音響)で、新幹線の座席に並んで座ってるだけでも修学旅行気分だもんね。

隣には藤岡さんが座ってたんだけど、窓の外を流れる景色を見ながら「新幹線だとあっという間に景色が変わるけど、昔の合戦の時は歩いてたからね。雑兵とかは垂れ流しながら進んでたんだよ。そりゃ早く偉くなって馬に乗りたいとか思うよな」なんて話がはじまる。

こういうのが楽しいんだよね。合戦で生き残るにはどうするかなんてことを話したりさ。

で、名古屋駅には主催の方たちが迎えに来てくれていて、会場となる相応寺へ。この相応寺は寛永20年に、徳川義直が生母お亀の方の菩提のために建立したという由緒あるお寺なのです。

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門のすぐ内側には、伝説の“トキワ荘“みたいなアパートがあって、これだけでグッとくる。お寺のご住職に挨拶して、本堂に入るとまさに歴史に囲まれる感じ。

藤岡藤巻がこんなところでやっていいのかしら。ステージの後ろには、400年以上も前に描かれたという屏風も飾っていただいている。

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まずはバチが当たらないように、皆でお賽銭を入れて、ご本尊に手を合わせる。「まさか、この歳になって、こういうところでライブができるなんて思わなかったな」と藤岡さん。

軽くバンドの音合わせをしたら、お待ちかねのランチ。"長楽”さんという地元で有名なお店の”ひつまぶし”弁当で、わざわざ社長が配達をしてくれました。

いただく前に、壁に貼られた食事の心得みたいなのを住職と唱和するんだけど、自分は弁当に目がいってたから、弁当の帯に書かれた「おいしいひつまぶしの食べ方~」と一人だけ違う唱和になって、慌てて止めたね。

で、この”ひつまぶし弁当”がおいしいの。味変とかもあって、皆、大満足。もうこれだけで、名古屋に一遍の悔いなし!と思ったほど。

ただね。藤巻さんはライブ前にお腹いっぱいになると眠くなるから大丈夫かなぁと思ってたら、「オレ、最近、睡眠障害なんだよ。昨日は1時間しか眠れなくて」と藤巻さん。えっ? どこでもいつでも眠れる藤巻さんが?

それを聞いた藤岡さんの目が輝く。「藤巻くんも、ついにきたか!」と嬉しそう。藤岡さんは睡眠障害のプロだもの。いつでも寝入りが悪い。

「えっ?! 前の日は1時間しか寝てないんですか!?」とオレ。「そうなんだよ。その前の日は、13時間寝たんだけどね」と藤巻さん。13時間…寝すぎだよ、寝すぎなんだよ! だから眠れないんだよ。赤ちゃんかよ!

そろそろ本番だから、本堂に移動しようかという段になると、控室と外をつなぐ出入り口が騒がしい。

何かと思ったら、タバコを吸いに外に出た藤岡さんのズボンが、植物の種子まみれになって途方にくれているいわゆる“ひっつき虫“というやつだ。どこでタバコ吸ってたんだよ!

主催の方々が、軍手で種子を撫で取って下さって、ようやく元通りに。

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本堂に作られたステージに向かうには、通常は一般の人は通れない本堂の裏の廊下を通っていく。普段は他人の目に触れるところじゃないから、いろいろ面白い。

いきなり驚いたのは、横綱“千代の富士“のでっかい手書きの看板が置いてあったこと。なんでも、昔は九重部屋の宿舎として使われたこともあったらしく、勝負運がつく寺とも言われているらしい。

で、藤岡さんと藤巻さんは、廊下の端にある棚を覗き込んでいる。どうやら木魚が気になるみたいだ。

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住職がやってきたところで、藤巻さんが話しかける。「この木魚、借りてもいいですか? 歌の伴奏に使いたいんですけど」。バチあたりめ!! でも、こういう時の藤巻さんは頼もしい。

そしたら、住職は快く「いいですよ」と。心広すぎるでしょ!

さらに「本堂にある太鼓もいいですか?」と藤巻さん。沈黙する住職。ここまでにしておきなさいって!

木魚は『もしオレが死んだら』の時に、藤巻さんがポコポコと叩いたけれど、他にも『死んじゃう音頭』なんかでも活躍していた。やっぱり、本物の木魚は音の説得力が違うぜ!!

そういえば、藤岡さんは『もしオレが死んだら』を選んだ時、『「いいか、よく聞いておけ神様♪」のところで、御本像を指さしたらどうかな? 静 炉巌やってよ』とか、『「ついでに上司も連れてってくれ♪」のところを、「ついでに和尚も連れてってくれ♪」にしたらいいんじゃないか』って、ゲラゲラ笑ってたんだよね。

これやってたら、住職も「えっ? オレ? ついでに地獄に連れていかれちゃうの?」って驚いただろうな。

そんなこんなで、とても楽しい名古屋ライブだったのです。お客さんも楽しんでいただけてたらいいな。それからお声がけいただいた皆様、何から何までありがとうございました!

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バンドメンバーの静 炉巌(せいろがん)です。だぁーれだ?

 あらためて言いますよ。パクリを舐めるな! 劣化コピーなんぞというジャンクに手を染める連中に、パクり道を歩く資格はないわさ! わかりますよね、奥さん!

 でもね、ここでオレは思ったわけ。あの魯山人だって、ファストフードしか食べたことがなきゃ、ホンモノの味なんてわかるはずがない。

だから、まずはホンモノのパクリを知ることが大事だってね。アツアツの肉汁が滴る極上のステーキみたいな、藤岡藤巻のパクリってやつをさ。

 それではパクりを目指すヒト! 本日のテキストは、藤岡藤巻のセカンドアルバム藤岡藤巻になります。持ってないヒト、買ってください。持ってるヒト、もう1枚買って、近所に配りましょう。

 では、今回の課題曲。アルバム4曲目の父さんを聴いてみてください。音量に気をつけてくださいね。あまり大きな音だと、ご近所さんがビックリしますから。

 はい、聴きましたね。この歌、ざっくりと言ってしまえば、“無邪気に平和への夢を語る息子を、戦争体験者の父親が理不尽に怒鳴りつける“という内容です。

 Aメロを藤巻さんが息子役で歌い、サビの父親役を藤岡さんが歌ってます。“父親の理不尽“パートを楽曲で表現する手法は驚異的で、「昭和のオヤジって、こんな感じだったんだろうな」と思わせる説得力がありますよね。

 でもね、Aメロ、なんか聴いたことがあるっていうか、妙に耳に馴染んでる感があるような気がしませんか?

 さっさと言っちゃいますが、このメロディは”ピーター・ポール&マリー”(Peter, Paul and Mary)の1963年のヒット曲『パフ』(Puff, the Magic Dragon)っぽいです。大瀧詠一も『デッキ・チェア』(歌:スラスプティック)、『スピーチバルーン』で、まんまパクってますね。

 とはいえ『父さん』は、「ちょっと、他人の空似が過ぎないかしら?」なんて感じるかもしれません。当然です。だって、ここで使われている手法は、“パクリ48手“のなかでも、禁じ手とされている“出向“(しゅっこう)という手法なんですから。

 “出向“とは、サラリーマンであれば“出世街道を外されて子会社行き“など、マイナスイメージがある悲しい響きの言葉。パクリ道では、“パクリ元のメロディのまま、パクリ先に行くこと”を意味します。

 本来なら、それは雑魚(ザコ)野郎が安易に手を出すダッサい“丸パクリ“のこと。でもね、“パクリ界の千利休“とも呼ばれる藤岡さんが、理由もなくジャンクな手法に手を出すはずがないでしょ? 

巨匠が禁じ手である“出向“を用いたのには、そうしなければならなかった2つの理由があるのです。

ひとつめの理由は、簡単であると同時に衝撃的でもあります。

 藤岡さんの相方である藤巻さん藤岡藤巻)は、歌にはあまり興味がなく、ライブでは世間話を延々と続けることで知られています。藤岡さんが新曲を作ってきてもなかなか覚えません。それどころか10年以上も歌っている歌でさえ、うろ覚えなのです。

 藤岡さんは、そんな藤巻さんに初めて『父さん』のデモを聴かせたときにこう言いました。

藤巻くんさ。きみが覚えやすいように、きみのパートは『パフ』のメロディにしておいたから。メロディがわからなくなったら『パフ』を歌えばいいよ

それは助かる。だったら歌えるかも!

メンバーがなかなかメロディを覚えないから、知っているメロディをもってきた”…ボーカルのガイドラインとしてのパクリ

これは長いパクリの歴史においても、他に類をみないケースです。世界最高峰のバンドと言われた、あのビートルズでさえ、思いつかなかったに違いありません。

 さて、ふたつめの理由は『父さん』という歌の本質に関わるものです。実は『父さん』という歌は、楽曲単体として成立しつつ、藤岡家の歴史の一部を切り取ってカリカチュアライズした作品でもあるのです。

 藤岡さんのお父上は厳格な方で、歌詞に「オレが戦争で満州に行ったときゃ♪」とある通り、満州からシベリア抑留を経験した戦争体験者でもあります。

 お父上にしてみれば、そんな過酷な体験をしてまで守ろうとした日本が、いつの間にか軟弱な国になっている。能天気に平和を叫ぶ”戦争を知らない子供たち”である息子は、長髪でロン毛、髪を伸ばした若者になってしまったのだから、内心はこの、ロングヘアめ!とジクジクたる思いがあったことでしょう。

そして、この歌のような父子の対立が、現実の藤岡家にもあったと想像できます。

 この構図を際立たせるために、巨匠は”平和”を口にする息子が歌うメロディに、当時の反戦をもってきたのです。

パフ』という楽曲は、本来は“子供の成長を歌った歌“ですが、ベトナム戦争当時のアメリカでは、”少年ジャッキーがパフの前に現れなくなったのは、戦争に行って戦死したからだ”と解釈されて、反戦歌だと受け取られていました。

 だから『父さん』のAメロは、”藤巻さんでも歌える反戦歌”ということで、『パフ』でなくてはならなかったのです。

 さらにサビにおいて、藤岡さんが、若かりし頃に反発した”父親”のパートを受け持ったことは、過去に生じた父子の対立を飲み込んだと解釈することもできます。

 つまり『父さん』という歌は、父と子の対立を音楽的に表現しただけではなく、その内側には私小説のように父子の過去を封じ込め、さらにその関係を乗り越えるというミルフィーユのような多層構造になっているのです。この歌は風刺劇であり、ドキュメンタリーであり、ドラマなのです。

 もし、ピーター・ポール&マリーが『父さん』を聴いたなら、間違いなくこう言うに違いありません

“Now I finally understand! The reason we sang "Puff" was to get a crack at Fujioka Fujimaki!“(今、やっとわかった! オレたちが『パフ』を歌ったのは、藤岡藤巻にパクられるためだったんだ!)と。

 余談になりますが、『父さん』の歌詞が私小説的だとするならば、歌詞には描かれていない“父さん“のエピソードも、また作品に重ねることができるかもしれません。そうすることで、より“父さん“を感じることができるのです。

 藤岡さんの一年後輩の山田さんは、“すみちゃんとステゴザウルス“のメンバーですが、いわばパクリの達人“とも言える人物です。

山田さんは、学生時代に藤岡家に入り浸っており、そこで藤岡さんの知らないうちに、お父上の蔵書をパクっては古本屋に売り飛ばしていたといいます(「当時、5万円ぐらいになったんだよ!」と山田さんが自慢してました)。

『父さん』で理不尽に怒鳴っている“父さん“が、実は理不尽に山田さんから蔵書をパクられていたそう思うと、この歌にまた一つ、なんとも言えない感情の層が重なってきます。

結局のところ、我々は巨匠の手のひらと、山田さんの手癖に、為すすべもなく踊らされているだけなのかもしれません。

パクリ道は険しく終わりのない道。パクリ道を志す皆さん、くれぐれも山〇さんの方のパクリ道に迷い込まないようにしてくださいね。


  • たっきぃ

    静炉厳さんこんにちは!
    藤岡さんのパクリと、山田さんのパクリとは、、、
    意味がぜんっぜん違うじゃないかー!
    と一応突っ込んでおきます(笑)。
    昔は、海外のアーティストは憧れや尊敬もあり、みんなパク、、いや参考にしてましたよねー。

  • しいたけ 

    うぉー静炉巌さん
    今回も深くて爆笑のお話をありがとうございます🙌
    一から百まですべて衝撃的で、本物のパクリ道の奥深さがよくわかりましたが、一番衝撃的だったのは、ウチのダンナに「ピーターポール&マリーのパフって曲知ってる?」と聴いたところ「いつも車でかけてんだろ殺すぞ」と言われ「知らなかった。なるほど藤岡藤巻の曲そっくりだね」と言うと「その話は前にしただろぶっ殺すぞ」と言われたことです。

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